この本との出会いは、我が家の近所の市立図書館でした。市のはずれの分館で、児童書ルームの一角に、とくに目立つわけでもないこの本が、ひっそりとおさめられています。私には毎回お目当ての本があって、『マジャミン』のことなんて考えもしないのに、なぜか行くたびに手に取ってしまう。そうやって、いつも眺めているのに、ちっとも飽きない。
「マジャミン」は、この本の表紙ではずかしそうな笑顔を見せている、「山の学校」の4年生の女の子の名まえです。舞台は、アフガニスタンの山あいの小さな小さな村。長年、紛争地の取材を続けてこられたフォト・ジャーナリストの長倉洋海さんが、撮影された写真の一枚一枚にご自身で言葉を書かれていて、それが、マジャミンと家族の生活をえがいた、ひとつの物語になっています。
朝5時に起きて、羊や牛を放牧地に連れて行く、お兄ちゃんたち。薬草や山菜をザックいっぱいに採ってくるお姉ちゃん。足の不自由なお父さん。水汲みに行くマジャミン。焼きたてのナン。雪解けの川を越えて通う、コンテナの学校。さびれたモスクを修復する、村の男たち。そして、そのひとつひとつに、長きにわたった戦争(旧ソ連による侵攻)の傷跡が見え隠れします。
90年代に私が大学でペルシア語を勉強していたころ、恩師たちの中には、若き日にアフガニスタンを旅した(新婚旅行した)という人たちが何人もいて、「あんなに美しい国はない」と口々に語っていました。7000m級の山々をもつヒンドゥークシュ山脈が国土いっぱいに広がる、山岳地域は、日本人にとっての原郷とも重なるのでしょう。
これからはきっと良くなっていく――マジャミンと村の人たちのそんな気持ちが、著者の写真いっぱいにつまっていて、まぶしくなります。
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