「ミて」連載者の前田君江さんが《千夜一夜 Books》を立ち上げました。今回のエッセイは、そのお知らせです(新井)。
こんにちは!《千夜一夜Books~中東絵本のキャラヴァン~》です。中東のことば――ペルシア語・トルコ語・アラビア語その他の絵本と児童書の翻訳をご紹介しながら、遠い国々のお話しとおはなし文化を日本に伝えていく活動をしています。
また、月に一度、《千夜一夜Books 通信》を、これまでの出会いのなかで中東の絵本に興味をもって下さった、出版に携わる方々、絵本を愛して下さるみなさんにお届けしています。(ご興味がおありの方は、kimiyam72@gmail.comへご一報ください。)
中東のおはなしパワー
中東の絵本は、一般に貧弱だと言われます。理由はふたつ。ひとつは、絵を描く文化の根が浅いこと。イスラームの宗教教義もその背景のひとつですが、とにかく広い中東地域、そんな宗教の受け入れ方も実はさまざまです。ふたつめは、《語り》の文化が根強いこと。物語の構成よりも、言葉のリズムや押韻を軸に話が展開していったり、翻訳不能の《韻文絵本》が大きなシェアを占めていたりと、わたしたちが考える《絵本》という表現メディアには収まり切らないパワーにあふれています。
アートなペルシア語絵本
ペルシア語絵本については、webエッセイ「七つの日、七つのいろ」でもお話ししたことがあります。詩的な物語と、個性きらめくイラスト。そして、作者もイラストレーターも、互いに予定調和することなんてほとんど考えずに、自分の世界を思いっきり追及してしまう。そんな究極のコラボは、まさに、《大人の絵本》の味わいです。
文化発信中!のトルコ絵本
トルコ文化観光省はTEDA(トルコ語翻訳出版助成プログラム)を通じて、トルコの絵本・児童書の翻訳を出版する海外の出版社に対し、出版費用を助成するという政策を発表しました。西洋と東洋、中東域内のいくつもの言語と文化――これらがせめぎあうトルコでは、伝統文学にせよ、絵本のような比較的若い表現分野にせよ、《これが私たちの国、私たちの文化》と声を大にして叫び続けなければならないのかもしれません。
エネルギッシュな出版社も多く、児童書の作家たち、イラストレーターたちとともに、読者となる子供たち・親たちを育てようとする取り組みも広がっています。
未知のアラビア語絵本
実は私自身もアラブ世界の絵本をめぐるキャラヴァンを走らせている最中です。偶像崇拝を固く禁じるイスラームの教義が、時として、絵画を好まない文化に強く反映されることもあるアラブ世界ですが、繊細な絵本を細々と生み出し続ける小さな出版社も多く存在します。
《千夜一夜》はどこにある?
「アラビアン・ナイト」とも呼ばれ、インド・ペルシア起源の物語群を母体とする《千夜一夜物語》。実は、発祥の地・中東ではあまり読まれていません。ペルシア語の国・イランから来た私の友人などは、「『千夜一夜物語』なんて、日本に来るまで聞いたことなかった!日本語で読んでみて、はじめてお話を知ったわ」と言っていました。
中東で読まれない理由は、官能的な逸話も含むこれらの物語群が、宗教的タブーに触れること。そして、中世アラブの知識人たちに俗っぽい語り物として卑下されていたことです。
ルーツも様々な、膨大な量のお話群から成る《千夜一夜物語》は、フランス語に訳され、「アラビアン・ナイト」と名付けられて新たな息吹を吹き込まれ、世界的な物語となりました。その後も絵本や児童書にとどまらず、表現の媒体や形を変えながら、生まれ変わり続けています。
《千夜一夜Books》の名前には、中東の魅力を再発見し、日本で新たに芽吹かせたいとの願いをこめました。
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